虚無
2018年04月15日
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錆びたベンチで物思いに耽っていると
浮浪者の爺さんが傍らに腰掛け
俺に大量のシケモクをくれた
ビニール袋にぎっしり詰まったそれを
俺は何も考えずに受け取っていた

桜が満開の木の下で
爺さんは俯いたまま一言も喋らない
俺は袋の塊を見つめたまま言葉が見つからない

新鮮味も生産性もないひと時の
そういう間の悪さが思いのほか痛快だった
むしろそれが俺には安逸であり心地良かった
他にするべき事もやりたい事も
何ひとつとしてなかったのだから

俺はシケモクを一本袋から取り出して
颯爽と火をつけて咥えてみた
深く息を吸い込んで
泥水のような味の煙をゆっくり
ゆっくりと味わって吐き出した

桜の薄紅に絡み合う鈍色の煙
浮かび上がる醜悪な極彩色にはどうやら
「虚無」の二文字が滲み出ているようだった