融雪
2018年04月08日
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薄く切れ目を入れた地平線に目を細める
樹々は連なり山々を鳴らし
鼓動を香らせ花が咲き乱れている
あらゆる生命は風景を彩る一欠片として
無情なるままに呼吸を繰り返している

身に纏う唯一の服である猿股を脱ぎ棄て
両手を広げて目を閉じて
清らかな陽光を深く受け止める
手を伸ばせば五指が艶やかに始動し
瞬き奏功する束縛のない肉体を体感できる

俺は存在している
この世に存在しているのだ
生命を全うする事実がここにある
大地を蹴り進むこの上ない喜びに
こころは剥き出しで小躍りし
涙を垂らし意味のない言葉を叫んでいる

ただ歩いてるだけで後ろ指をさされ
ただ酒を飲んでるだけで石を投げられる
痴愚で情けない俺がいま清らかに融雪の時を迎える
素晴らしく愉快であり疑いのなき幸福

俺は幸せ者だ
身分不相応な程と言っていい
この肉体に身切れたところなどひとつもない
不自由などひとつとしてない
潜考し鍛錬し試行する術を持っている
揺るぎない僥倖が目の前で脈動している

感謝したい 心の底から
名前も知らない我が創造主に

生きていくことには理由が必要なのだとか
意味のない人生に何の価値があるのだとか
そんな屁理屈はどうでもいい

この世に存在することが許されている
それが俺にとって筆舌尽くしがたい幸福なのだ

明日のことは明日考えればいい
好きなように自由を享受して生きていればいい
いつか死滅する日がやってくるのだから
散りゆく花弁の明日を今考えてもそんなこと
そんなことは仕方がないじゃないか