嘔吐
2018年03月29日
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しんしんと降り注ぐ
鋭く尖った水の針

裸で踊り明かすのが好きな俺
でも今日は踊りたいと思わない
別段雨が嫌いだという訳ではない
ただ服を脱ぎ捨てた途端に
踊りたいという欲求が黒い何かに押し潰された

得体の知れない不安感がすうっと流れる
何故こんな気分になるのか見当もつかない
パンツ一丁で待機している身体に冷気が貫いて
俺は思わず口を左手で塞いだ

唐突な吐き気
黒い何かが脳みその深くからせり上がってくる
左手はじんわりと汗ばんでいる
鈍色に滲む外の景色
俺はそれを眺めて気を紛らそうとした

ジグザグに切り取られた山岳地帯
猥雑な木々から頼りない枝が延びている
空はそれを罵るかのように
鋭利な針を何百何千と注いでいる

普段から気味の悪い山々の景色が
今日は一段と不快感を醸し出している

駄目だ吐き気が止まらない
黒い何かに脳みそを四方から圧迫されている感じ
もう外を見るのはよそうと思った時だった
雨模様のなか
ひらひら漂う白い物体が視界に入った

パンツだ

パンツというよりパンティ
女性用のそれが雨風にさらされながら浮かんでいる
どこからか飛ばされて来たのだろうか

鈍色の空を優雅に舞う純白のパンティ
それを部屋から呆然と眺めているパンツ一丁の男
シュールだ
何故パンティが空を飛んでいるのか
そんなことはもうこの際どうでも良い

俺は何故かしら清々しい気分で満たされていた
脳みそが隈なく洗浄されていくような感覚
あのパンティのように己の全てが純白に染まる
それは例えようのない安堵であり
素晴らしき光景であった

無限に広がる草原で全裸になって踊り明かした
あの去りし日の愉悦にも勝る強烈な開放感に
剥き出しの心は悦びに震え上がり
嗚咽を漏らし喘きを垂れ流している

踊ろう

発情にも似た野生の衝動が全身を鼓舞させた
ある種の快美を求めるがままに
自分の腰にぴったり張り付いたパンツに指を入れ
秘めたる己の軽躁を曝け出そうとした
まさにその瞬間

忘却していた吐き気がどっと押し寄せて
黒い何かが物凄い勢いで逆流するのを感じた

途端に正気を失いかけて視界は回転
俺は辛うじて窓にうっすら映る己の瞳を見つけた
茹で蛸のようにピクピク赤面した顔面
その震えは止まない雨を賛美するかのように決壊し

俺は思わず
口から脳みそをドバドバ吐き出した
真っ黒に変色した脳みそを
ビチビチと踊り狂う脳みそを

鈍色が沁みる雨模様へ埋葬するかのように